006 邸~Kidnap

   ヒイカたちは歩き始め、やがて町の中心部へとたどり着いた。

   そこには、やたら警備が厳しい豪邸のような建物があった。

ヤズネ:どっかの金持ちでも住んでるんでやすかね?

ウミナギ:だろうな。ちッ、妬ましい。

警備員:ダメだダメだ。このお屋敷には関係者以外立ち入り禁止だよ。

   一人の男の子が、そこへ入ろうとしているところを警備員に止められていた。

男の子:約束してるんだよ!お嬢様にこのお花を届けるって!約束したんだ!

   男の子は赤い花を警備員に見せた。

警備員:しかしだね、君のような子が来るとは聞いていないし、大体お嬢様がそんな道端に咲いていそうな花を求めるわけがない。

男の子:そんなぁ…でも、本当にお嬢様と約束したんだよ!信じてよ!

警備員:どうせ君もお嬢様に会いたい一心でそんな嘘をついているんだろう?たしかにトレアお嬢様は美しく、素敵な人だ。でもそんな嘘ついちゃいけないよ?

男の子:嘘じゃないよ!本当にお嬢様に言われたんだ!確認してみてよ!

警備員:はいはい、また今度ね。

男の子:今度じゃ間に合わないんだよ!だってお嬢様、死んじゃうかもしれないんだから!!

警備員:いい加減にしないか!大人しく帰りなさい!

男の子:うっ、ううっ…だって、お嬢様と…約束…

   男の子は泣きながら訴えた。

警備員:泣いたってダメだよ。さぁ、帰った帰った!

ウミナギ:ちッ、ムカつくやろォだ。

ハリイノギョ:ウミナギはん?

   ウミナギは警備員に近づいた。

警備員:なんだね、君は?

ウミナギ:このガキの言う事本当かどうかくらい確認すりゃいいだろォォ?てめェ子供泣かして何も感じねェのかァァ?

警備員:あのね、これは仕事なんだ。お嬢様の身を守るためにも、相手が誰であろうと通すわけにはいかないんだ。

ウミナギ:ガキになんの力があればお嬢様の身が危なくなるってんだァ?確認くらいしてやれってんだよォォォ!

警備員:何なんだお前は!いい加減にしないか!

ヤズネ:いい加減にするのはお前の方でやすよ。

   ヤズネがふよふよとウミナギの頭に乗った。

ヤズネ:それ以上阻むっていうのなら、わちきがこの子が中に入るのを手伝ってやるでやす。

警備員:不法侵入になるがいいのか?

ウミナギ:てめェが喋らなきゃわからねェだろォ?

ヤズネ:そうでやす。お前はもう…何も見えないよ。

   フッ

警備員:うわぁぁ!?目が、目が見えない!?

ヤズネ:今の内でやす!

男の子:あ、あの…

ウミナギ:何してんだァァ?お嬢様のとこに行くんだろォォ?俺がついていってやるからさっさとしやがれェ!

男の子:は、はいっ!

   ウミナギとヤズネと男の子は屋敷へと入った。

ネクリア:ちょっとウミナギ!

ウミナギ:すぐ戻るぜェ!

ジャング:あのバカ…

ハリイノギョ:わいらもいかんでええんか?

ネクリア:全員で行動しても屋敷内の警備員に見つかりやすくなって事が大きくなるだけ。それよりも、この警備員が何かしないか見張っておく必要があるわ。

ヒイカ:まったく、あんたの手下はどいつもこいつも自分勝手ね。

ネクリア:面目ない…

   屋敷内

ウミナギ:お嬢様はどこにいんだァ?

男の子:こっち!あの奥の部屋だよ

ウミナギ:よォし、あそこだな。

ヤズネ:(にしても、中には誰もいないでやすね…)

   ウミナギたちは奥の部屋へと入った。

男の子:お嬢様!お花持って来たよ!

   しかし、その部屋にはお嬢様はいなかった。

ウミナギ:あァ?いねェじゃねェか。

男の子:そんなはずは…たしかに、お嬢様はいつもここにいるはずなんだ!

アルトア:部屋を間違えてるんじゃないか?

ノット:その可能性、ある。

男の子:う、うわぁぁぁぁ!?お化けだー!?

   男の子はウミナギの後ろから現れたアルトアたちに驚いた。

ウミナギ:ん?ああ、こいつらはお化けじゃねェよ。ま、憑き物だから似た様なもんだけどな。

ヤズネ:それより、部屋間違えてるなら早くお嬢様の部屋を探さないと、そのうち警備員が来るでやすよ!

ウミナギ:あァ、おいガキ!

男の子:ここだったと思うんだけどなぁ…

ウミナギ:でもいねェだろ!行くぞ!

男の子:う、うん…あれ?

ペライト:ドウシタンダ?

男の子:あれ…お嬢様のだ。

   男の子は、地面に落ちている変な機械を指差した。

ヤズネ:なんでやすか?これ?

   ヤズネはその機械を拾った。

男の子:お嬢様が前に教えてくれたんだ。それは、片方が別の場所にあっても、もう片方でその場所がわかるんだって。

ヤズネ:へぇ~、おもしろいでやすね。

   ヤズネは機械を男の子に渡した。

アルトア:ん?

ウミナギ:どうしたァ?

アルトア:いる…この部屋の近くに生き物が。

ペライト:オジョウサマ?ソレトモケイビイン?

アルトア:わからない。でも、動く気配はない。こちらに気づいていないのか?

ヤズネ:それならわちきの出番でやすね。一言でも聞こえれば判断できるでやすよ。

アルトア:位置的に…その隣の部屋だな。

   アルトアは部屋を出て、すぐ隣の部屋を指差した。

男の子:あれ?その部屋って、物置だってお嬢様言ってたよ?

ノット:物置に人、変。

ウミナギ:それもそうだなァァ。行ってみるか?

   ウミナギたちは物置のドアを開けた。

ペライト:ヒトイタ!

   そこには、気を失った男性がいた。

男の子:ひつじさん!

   男の子は男性に駆け寄った。

ノット:ひつじ?

アルトア:執事だろ?

男の子:しっかりしてよ!ひつじさん!

   男の子は男性の体をポンポンとたたいた。

執事:む…

   男性は目を覚ました。

執事:君は…

男の子:ひつじさん、どうしたの?

執事:そ、そうだ!お嬢様が!!

ウミナギ:お嬢様がどうしたんだァァ?

執事:君たちは?

男の子:この人たちは僕がお屋敷に入るのに協力してくれた人たちだよ!それより、お嬢様は?

執事:お嬢様…私としたことが…

ウミナギ:だからどうしたってんだよォ?

執事:わからないんだ…私がお嬢様の言いつけで紅茶をお持ちした時、部屋に入ると後ろから後頭部を殴られて…

男の子:お嬢様は!?

執事:朦朧とする意識の中、お嬢様の悲鳴が聞こえた。多分…連れ去られてしまったんだ…

男の子:そんなぁ!

執事:お嬢様が連れ去られてしまったのは私が不甲斐なかったからだ。この命で償う他ない!

   執事は針を取り出し、自分の首に向けた。

男の子:何やってるの!?

執事:お嬢様を守れなかった執事に、生きる資格などない!

ウミナギ:てめェェ…ふざけてんじゃねェぞォォォォ!!

   ウミナギは執事の針を奪い取り、バキッと折った。

ウミナギ:お嬢様が連れ去られたのはてめェが不甲斐ないってェのはたしかだ。でもよゥ、だからっててめェが死ぬのはどうなんだ?あ゙ぁ゙!?

執事:しかし、私にはどうしようも…

ウミナギ:てめェ、死ぬくらいなら死ぬ気でお嬢様探し出せ!本当に命張るってんなら、死んでもお嬢様を取り返すって言ってみやがれってんだよォォォォ!!

   ウミナギは執事の肩をつかんだ。

ウミナギ:お嬢様は、待ってるかもしれねェだろ?てめェが来るのを、てめェが死ぬ気で助けにきてくれんのを!それが…てめェの役目だろ?

執事:…ふふ、君は…実に失礼な人だな。…だが、ありがとう。そうだ、私はお嬢様の執事。お嬢様をこの命懸けてお守りするのが私の役目!

ヤズネ:犯人が誰か予想つかないんでやすか?こういうのって大抵恨みとかでやすよ。

執事:いや、トレアお嬢様は人がいいから、恨みを買うようなことはないはずだ。先代だって心優しいお方だ。

ヤズネ:だとしたら…逆のパターンで、お嬢様を返してほしければ金出せ~系でやすね。

執事:それで済むのなら、いくらでも金は出す。お嬢様の命より大切なものなどない!

ウミナギ:おいおい、それじゃあ犯人の思うつぼじゃねェか。そんときは俺らで犯人捕まえてやるよォ。

男の子:でも、お嬢様が解放される前に犯人を捕まえちゃったら、お嬢様、どうなっちゃうの?

ヤズネ:心配するなでやす。不可能を可能にできる奴が、今この屋敷の外にいるでやすよ♪

   ヤズネたちは外に出て、ヒイカたちに説明した。

ヒイカ:面倒。

ペライト:ヒトコトデカタヅケター!?

ヒイカ:大体する意味がないのよ。私が助けてあげることは簡単だけど、タダ働きってのも微妙よねー。

ネクリア:それもそうね。

執事:そこをなんとかお願いします!お嬢様が無事に帰ってさえきてくれれば、金や食べ物でよければいくらでも差し上げますから!

ハリイノギョ:食べ物やて!?ヒイカはん、ネクリアはん、これはやるしかないで!

フバクノソラワ:金持ちのご馳走か~…美味しいんだろうな~♪

ジャング:金があれば旅では何かと便利になるな。行動範囲も広がるだろう。

ネクリア:ふーん、まぁ…私は構わないわ。

ヒイカ:ゲンキンねあんたら。

ネクリア:そんなものよ。

ヒイカ:たしかにお金も食べ物ももらえれば助かるけど、なーんか釈然としないのよね。

ミョンガー:どういうこと~?

ヒイカ:執事、あんたは朦朧とした意識の中、お嬢様の悲鳴を聞いたのよね?

執事:は、はい…

ヒイカ:で、目が覚めたら物置で、ヤズネたちがいた。で間違いないわね?

執事:はい。

ヒイカ:だったらおかしいんじゃないかしら?どうして悲鳴だけで連れ去られたとわかったの?

執事:少年たちとの会話も含めてそう結論を出したのです。むしろ、それ以外考えられない。

ヒイカ:あなたと同じように屋敷内に閉じ込められてるとは考えられないの?

執事:屋敷内に閉じ込めるって…それじゃあ何がしたいのかわからないですよ。

ヒイカ:…それもそうね。じゃあ次、ペライト。あなた、お嬢様の部屋を全部見た?

ペライト:エ?アア、ヒトトオリハミタ。

ヒイカ:じゃあ…割れた破片や、床に零れた紅茶はあったかしら?

ペライト:ンー…イヤ、ソンナモノハナカッタ。

ヒイカ:そう。じゃあおかしいわね。紅茶を持って部屋に入った時に後頭部を殴られたのに。その紅茶はどこに消えたのかしら?

執事:そ、それは…わかりません…

ヒイカ:わからない?あなたが持って行った紅茶よ?

ハリイノギョ:犯人はんが拭き取ったとか?

ジャング:する意味がないだろう。時間もかかるし、カップの破片を拾うのも一苦労だ。

ネクリア:だとしたら…執事が嘘を言ってるってことになるわねぇ?

執事:な!?嘘なんて言っていません!私が何故そんな嘘をつかなければならないのですか!?

ジャング:空想上の犯人を作り上げ、お嬢様の父親辺りから金を奪い、お嬢様を返す。よくあるパターンだな。

執事:そんな…!私はお嬢様が生まれた時からお仕えしているんです!そんなお嬢様を裏切るなど…死んでもできません!!

ヒイカ:へぇ、じゃあさ、もし犯人があなただったら…覚悟はできてるってことね?

   ヒイカは妖しく微笑んだ。

執事:も、もちろんです!私はお嬢様のためなら、この命を奉げられる!

   執事はまっすぐな目でヒイカを見つめた。

ヒイカ:…わかったわ。協力してあげる。

ヤズネ:ほんとでやすか!?

ヒイカ:ええ。

ジャング:それで、どう捜すんだ?手掛かりは何かあるのか?

ヤズネ:ない!

ウミナギ:いばんな。

ヤズネ:お前だって何も手掛かりつかんでないでやしょー!

ウミナギ:まぁそうだけどな…

男の子:ねぇ、あなたは不可能を可能にできるんでしょ?それでお嬢様捜してよ!

ヒイカ:ヤズネ、あんた何いったらこうなるのよ。

ヤズネ:え?そのままでやす。

ヒイカ:…まぁいいわ。

ネクリア:何か策があるの?

ヒイカ:ない。

ハリイノギョ:どないするんや?

ヒイカ:んー…誰かそんな感じの特殊能力持ってないの?ノットとか何かない?

ノット:ない。

ヒイカ:あっそう。じゃあそうね…まずは屋敷内で犯人からの連絡を待ちましょう。

ヤズネ:おぉ、なんだか刑事ドラマっぽいでやすね!

ウミナギ:もうちょっと緊張感もてよなァ。

   屋敷内

執事:何もきませんね…お嬢様…!

ネクリア:犯人は何が目的かしら?やっぱりお金?

ソルト&シュガー:じゃないのかなー。でないとわざわざご令嬢なんて誘拐しないでしょー。

ジャング:家宝があれば、それを狙っているとかもあるかもな。

執事:家宝…私めは聞いたことありません。

ヒイカ:…

   ヒイカは席を立った。

ネクリア:あら、どこにいくの?

ヒイカ:屋敷探索。

執事:あ、私が屋敷内をご案内します。

ヒイカ:…じゃあお願いするわ。

   ヒイカと執事は歩いて行った。

ネクリア:さぁ、トランプでもしましょう!

ジャング:どこから出した?

ネクリア:どっかから。

ウミナギ:呑気だなァ。

ネクリア:暗い雰囲気って苦手なのよ。それにただ待機してるだけなら、楽しく待ってた方がいいでしょ?

ハリイノギョ:せやな。さぁ!何にするん?大富豪?ダウト?

ミョンガー:豚のしっぽだよ~

ハリイノギョ:なんやそら?

男の子:信じられない…

ネクリア:どうしたの?

男の子:お嬢様が心配じゃないの!?なんでそんな事言えるの!?信じられないよ!

ネクリア:心配じゃないなんて言ってないでしょ?今はこっちからできることはないの。だから…

男の子:うるさい!お嬢様は…僕が助ける!!

   男の子は走って行ってしまった。

ネクリア:あ!

ジャング:追うか?

ネクリア:…追うわ。きっとラブルだって、追えば仲直りできたはずなの…

ジャング:じゃあ、行くぞ。

   ネクリアたちは男の子を追って走った。

   ヒイカ側

ヒイカ:この部屋は?

執事:私の部屋でございます。

ヒイカ:入ってもいい?

執事:え?ええ、構いませんよ。

   執事の部屋

   執事の部屋は、紺色などの落ち着いた色で統一されていた。

   更にオーケストラの曲が大きめの音量で流れていた。

ヒイカ:随分暗い部屋ね。面白味もない。

執事:私はお嬢様に仕えるだけ。何かを求めてはいけない。求めるものは、お嬢様の笑顔だけです。

ヒイカ:そう…

   ヒイカはクローゼットに近づいた。

執事:あっ!そこは!

   執事はヒイカを止めた。

ヒイカ:あら?どうしたの?

執事:い、いえ…ここは私の私服が入っていますので、ちょっとそれは見せられませんね…

ヒイカ:別にいいでしょ?どんな服入ってても軽蔑なんかしないわよ。

執事:いえいえ!こればっかりは!

ヒイカ:そこまでの反応…逆に気になるわ。

執事:(こうなったら…)わかりましたよ…ただし、わ、笑ったりしないでくださいよ?

ヒイカ:笑わないわよ。

   ヒイカはクローゼットの前に立ち、クローゼットの扉を開いた。

ヒイカ:!?

トレア:ん~っ!

   クローゼットの中には、縛られて口を塞がれたトレアお嬢様がいた。

トレア:んっ!?

   トレアお嬢様は目隠しもされていて、誰かが来たことに恐怖していた。

   ひゅっ

ヒイカ:え?

執事:フッ。

   執事は後ろから数本の縄を上から前に回し、それを後ろに引っ張った。

ヒイカ:きゃっ!

   執事は縄をきつく縛った。

執事:申し訳ありませんね。しかし、見られたからには帰すわけにはいきません。

ヒイカ:(ふん、こいつ私の力…知らないのかしら?このくら…い…あ、あれ…?力が…入らない…)

   バタッ

   ヒイカは倒れてしまった。

執事:私の縄は気力を奪い取る力があるのですよ。フッ。

ヒイカ:(だめ…意識…が…)

   ヒイカは気を失ってしまった。

トレア:ん~っ!

執事:済みませんねお嬢様、もう少しお待ちくださいね。

トレア:んん~!

執事:え?何?わかってますよ。邪魔者を早く処分して、遊びたいって言ってるんですよね?

トレア:ん~!

執事:そんなに焦らなくて結構ですよ。すぐ、お相手致しますよ。




                            続く

 

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2011‎年‎3‎月‎28‎日作成