17 善が進む空間

ネ:……

ジ:……

   ネクリアたちは林を歩いていた。が…

ネ:ねぇジャング。さっきから後ろから妙な視線を感じるのよね~。

ジ:俺も感じていますよ。

   その視線の正体は…

ア:(あいつらは絶対に僕の研究の成果を見せつけてやるんだ!)

ネ:あれで尾行でもしてるつもりなのかしら?

ジ:丸見えですね。

ネ:そもそも林なんて隠れる場所もそうないのにねぇ。

ジ:ただの阿呆ですね。

ア:聞こえてんだよぉぉ!!

ネ:アラキコエテタノネー。イツノマニカオオゴエデシャベッテタワー。

ア:あからさますぎるだろ!!

ネ:で?なんで私たちをつけてんのよ?

ジ:ストーカーですね。

ネ:わぁ、変態。

ア:違う違う!偵察だ偵察!!

ネ:何を?

ア:お前達を。

ネ:どうして?

ア:今度こそ倒せるように。

ネ:何度やっても無理よ。以上。さぁ行くわよ。

ジ:はい。

ア:ってちょっとまてぇーい!然は問屋が卸さないぞ!

ネ:うるさい奴ね~。

ア:もう怒ったぞ!僕をここまで侮辱しやがってー!

ジ:別に侮辱はしてませんけどね。

ア:今度こそ後悔させてやるからな!覚悟しろ!

ネ:勝てないから偵察してたってことは、今は勝てないってことを自覚してるのよね?だったら挑んでも無駄だってこともわからないのかしら?

ジ:今こいつは竹屋の火事。何を言っても挑んできますよ。

   アンプはいつも通り試験管を取り出した。そしてもう一つ、ペットボトルを取り出した。

ネ:今日はペットボトル怪物かしら?

ア:そんな安易なものではない!

   アンプはペットボトルのふたをあけ、中に入っていた液体を地面に零した。そこに試験管の液体を注いだ。

ア:さぁ!あいつらを溺れさせろ!水の怪物!

   液体はこれまたいつも通り変化し、ネクリアたちに襲いかかった。

ジ:水は斬れませんね。だとしたら…

ネ:相剋…よりも相生の方が効き目がありそうだから、『木の根操縦!』

   地面から木の根が現れ、水の怪物を貫いた。

ネ:今回は早めに済みそうね。

ア:ふふふ…まだだよな!

   水の怪物は体を貫かれても平気で進んできた。

ネ:あーそう、それじゃ効かないってことね。じゃあ相剋よ!『土の城壁!』

   地面から土の壁が現れ、水の怪物の行く手を阻んだ。

ア:そんなものが通用するもんか!全部沈めてしまえ!

   ばしゃぁぁ

   水の怪物は土の壁に激突し、はじけたが、隙間を潜りぬけて再び水の怪物の形へとなった。

ネ:げげっ!面倒な奴ね!

ジ:(中々危険な相手…ならば…)

   スッ

   ジャングは懐の赤いナイフを手に持った。

ネ:待ちなさいジャング。

ジ:え?

   ネクリアはそれを悟り、止めた。

ネ:きっとあいつは刻んでも今みたいに復活するわ。倒す術は、完全に消し去ることのみ。

ジ:完全に消し去る?…まさか、"禁忌"を使うつもりじゃないですよね?

ネ:いいえ、"禁忌"を使うまでもないわ。この陽の力ならね。

ジ:(陽の力…五行陰陽最後の力、「日」か…)

   五行。それは中国等の古来思想で、万物を構成し、支配する5つの元素と呼ばれた。

   木(もく)・火(か)・土(ど)・金(ごん)・水(すい)の総称である。

   木火土金水の流れを相生といい、木は火を生成し、火は土を生成し、土は金を生成し、金は水を生成し、水は木を生成するというものである。

   図に表すのならば円。この循環によって万物は成り立つとされる。

   木土水火金の流れは相剋といい、木は土の上に立ち、土は水を吸い、水は火を消し、火は金を溶かし、金は木を斬るという打ち消しである。

   図に表すのならば星。相生の円を星型に結ぶと出来上がるのが相剋である。

   相生は和合、幸福。相剋は不和、災難。これによって相生は陰陽で表すと陽、相剋は陰となる。

   現在の日本における「曜日」。それは日(太陽)と月と、火水木金土の五星からなる。

   それを五行と照らし合わせると、陰が月、陽が日となる。

   曜日と五行陰陽には関係性はあまりないが、まとめて表記される場合もある。

   ネクリアの力は五行陰陽であり曜日の力でもある。つまり両方。

   ネクリア自身は大して気にしていないからこそ「月」の力を多用するが、本来は「日」と「月」は他とは異なる力。

   「日」だけは別格として見てはいる。だからこそここぞという時にしか使用しない。

   というよりもネクリアは、「世界征服」を悪として見ているため、陽の力…つまり善、光である日を使うことを躊躇っている。

ジ:(俺も初めて見るな。日の力…)

ア:そんなハッタリが通用するものか!

ネ:まるで鬼の首を取ったようね。でも、あなたは今から肌に栗を生ずことになるわよ。

ア:何をわけのわからないことを…

ネ:だったらご覧なさい。『日輪草開花!』

   ・・・・・・

ア:なんだ?何をした?

ジ:(何も起こっていない?不発か?)

ネ:あんたたち、どこ見てるのかしら?そこよ、ほら。

   ネクリアは水の怪物の足元を指差した。

ジ:え?…向日葵?

 


                                      続く

 

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2011‎年‎3‎月‎3‎日作成