11 海が変わる橙

   森の奥に流れる川

ジ:…

   その辺の岩に腰をかけ、静かに流れる川を見つめるジャング。

ウ:おゥ。やっと見つけたぜェ。

   ウミナギはジャングを追ってきていた。

ジ:…何だ?一人にしてくれって言ったはずだ。

ウ:お前らの関係ってさ、なんつか…不思議なんだよなァ。

ジ:お前ら?誰とのことだ?

ウ:ネクリアだ。仲間っていうには…ちょっと奇妙だ。

ジ:どう奇妙なんだ?

ウ:細かくはわかんねェよ。でも、仲間じゃないみたいだ。どちらかと言うと…敵対してる。

ジ:…敵対…か。

ウ:ま、俺の勘違いかもしれねェけどな。

ジ:…いや、あながち間違いではない。

ウ:あァ?そうなのかァ?

ジ:俺は…ネクリアを信頼していないのかもしれない。

回想~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

   ネクリアは城を離れ、カフェで優雅にコーヒーを飲んでいた。

ネ:(特に何もないし、そろそろこの国から出ようかしらね~。)

   ドガーーーン

ネ:え?

   突然爆発音と地響きが襲った。

ネ:(今の音…城!?)

   ネクリアが城を見ると、城の上部から黒煙が上がっていた。

住人:おいおい…王女は大丈夫なのか!?

ネ:(たしかに…あれは危なそうね。ちょっと行ってみようかしら。)

   ネクリアは城の中へと入り、再び王女の部屋へ向かった。

ネ:(え!?)

   爆発は王女の部屋で起こっており、扉も粉々になっていた。

ネ:これは…どうなってるの!?

ジ:リッパー様!リッパー様ぁぁぁ!!

   部屋の中で、傷だらけのジャングが血塗れの王女を抱きかかえていた。。

ネ:あんた…何があったの!?

ジ:お前…さっきの…

ネ:早く手当てしないと!

   ネクリアが王女に触ろうとすると

ジ:触るなぁぁぁぁ!!!

   バシッ

   ジャングはネクリアの手を払った。

ネ:何するのよ!

ジ:リッパー様に触れていいのは俺だけだ…誰も触れさせない…リッパー様は俺だけのものだ…

ネ:そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!?早く手当てしないと…手遅れになるのよ!?

ジ:触れさせない…俺だけのものだ…誰にも…

ネ:あーもう!どきな!

   ドンッ

   ネクリアはジャングを突き飛ばした。

ネ:(これはひどい出血…早く医者に見せないと本当にやばいわね…)あんた、医者連れてきなさい!

   ネクリアが呼びかけても、ジャングは反応しなかった。

ネ:ちょっとあんた!聞いてんの!?

ジ:俺のリッパー様に…手を出すなぁぁぁぁ!!

   ジャングはネクリアに斬りかかった。

ネ:ぃたっ!あんたねぇ!だからそんなことを言ってる場合じゃ…

ジ:俺の…リッパー様…俺の…

ネ:(まともに話せる状態じゃなさそうね…)悪いけど…『月の光線!』

   ビィィィーン

   ネクリアの放った光線は一直線にジャングに伸びていった。

ネ:(これで眠ってて…)

   スッ

   ジャングは前かがみになって光線を回避し、そのまま突っ込んできた。

ネ:ちょっ!?

ジ:リッパー様に…手を触れるなぁぁ!!『ナイフ微塵斬り!』

   ジャングは連続で斬りかかってきた。

ネ:『土の城壁!』

   ネクリアは土の壁を作り、ジャングのナイフを防いだ。

ジ:この壁…邪魔なんだよぉぉぉぉ!!

   ジャングは力を増し、壁を砕いた。

ネ:(まずい!…斬られる!)

   ジャングは裏手にナイフを持ち、手を大きく上にあげた。

ジ:その手を離せぇぇぇ!!

ネ:(くっ!)

   ネクリアは目を瞑った。

   ザクッ

ネ:痛……くない?

   ネクリアがゆっくり目を開くと、王女がネクリアを覆うように盾になっていた。

ジ:リッパー…さま…?

   ジャングのナイフは王女の背に刺さっていた。

王女:おやめなさ…い…

ジ:あ…あぁ…

   かしゃん

   王女に刺さったナイフは地面に落ちた。

王女:怪我は…ない?

ネ:え?ええ…それより、早く医者に…

王女:いいわ…

ネ:でも!

王女:ジャン…グ…

ジ:リッパー様!!

   ジャングは王女を支えた。

ジ:申し訳ありません…リッパー様…

王女:あなたが…責を負う必要はありません…これは…運命…

ネ:ねぇ、何があったの?一体誰が…

王女:わかりません…でも、私の行いをよく思わない者も…いたのでしょう…

ジ:そんなことありません!リッパー様のすることに間違いなど…

王女:私もそう信じてここまで来ました。でも…

ネ:…犯人を探すわ。探して見せる。

王女:その必要はありません…

ネ:でも、このままじゃ…

王女:言ったでしょう…これは運命…定められた道。変えることはできない…

ネ:運命なんて自分で切り開くものよ!定められてる道なんかじゃない!

王女:ふふ…最後に…あなたのような人に出会えて…よかった…

ジ:リッパー様…リッパー様ぁぁぁ…

王女:ジャング…今まで、ありがとう…あなたもまた新しい人に仕えて…そう、たとえば…この人のような、素敵な…人に…

   王女は、そこで息絶えた。

ジ:リッパー様ぁぁぁぁぁぁ!!!

   それから数日後

   町はずれの倉庫

人:ま、待ってくれ!殺さないで…

ネ:殺さないで?よくそんなことが言えたわね。

ジ:リッパー様を死に陥れたお前は…ここで果てろ。

人:ひ…

   ネクリアとジャングは爆発を起こした犯人を探し出し、跡形もなく消し去った。

   倉庫の外

ネ:あんた、この先どうするの?

ジ:…わからない。リッパー様を失った俺には、何も残っていない。

ネ:そう…。だったら、あんたさ…私と一緒に来ない?

ジ:…何?

ネ:何も残ってないなら、私と何か残るものを創りましょう?

ジ:お前とだと…?断る。俺はリッパー様にしか仕えない。

ネ:別に仕える必要はないわ。仲間になりましょう?私ね、あんたのこと、気に入ったのよ。

ジ:仲間…?

ネ:ええ、あなたも一緒に来てくれると思うんだけど?世界征服の旅。

ジ:世界征服?くだらないな。そんなもの出来るはずがない。

ネ:出来るはずがない。でも、誰かがやらなきゃいけないのよ。この世から…犯罪者を消すの。

ジ:犯罪者を…消す…

ネ:あんたも悔しいでしょ?あんな奴らの所為で…王女のような素敵な命が失われていくの。私は、それを黙って見ていられない。あんたは?

ジ:……俺もだ。犯罪者どもが蔓延るこの世界を…変えたい。

ネ:それなら決まりよ。…一緒に来なさい、ジャング!

ジ:…一つだけ覚えておけ。

ネ:何よ?

ジ:俺は、決してリッパー様以外の奴に忠誠は誓わない。

ネ:構わないわ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ハ:なるほどな~。せやからジャングはんは手下になるんを嫌がったんやな。

ネ:すっかり忘れてたわ。悪い事言ったわね…

   ガサッ

   ジャングとウミナギが帰ってきた。

ネ:あら、おかえり。

ジ:ああ。

   その場はしばらく沈黙だった。

ジ:ネクリア。

   その沈黙を破ったのは、ジャングだった。

ネ:ん、ん?

ジ:いつか…お前をもっと信頼して、この身を完全に任せられるようになったら……側近にくらいはなってやるよ。

ネ:ジャング……。わかったわ。待ってるわよ。

ジ:…そろそろ出発するか。

ネ:そうね。

   ネクリアたちは、静かに歩きだした。


                                 続く

 

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2011‎年‎2‎月‎28‎日作成