ジ:『ナイフ微塵斬り!』
ジャングはウミナギを連続で斬りつけた。
ウ:いてェェなァァ!このやろォォォ!
ネクリアたちは少し離れて、ハリイノギョから話を聞いていた。
ネ:犬神憑きについてはわかったわ。だったらあいつは憑かれてるってことね?
ハ:わいも最初はそう思ったんやけど、ジャングはんはそうやないって言うたんや。
ミ:何が違うの?
ハ:ジャングはんも確信がなかったからアルトアはんたちを問い詰めたんやけど、なんでも、ウミナギはんの場合は代々犬神憑きやそうねん。
ネ:はぁ?何言ってるのかよくわかんないわ。犬神憑きは家系で代々伝わるものなんでしょ?だったら不思議でもなんでもないじゃないの。
犬神。それは憑き物。人に害を与えると言われる。犬神がついた者は犬神憑きと呼ばれ、縁組などを嫌われた。
その理由は、犬神憑きの家系は憑かれると、その末裔までずっと憑かれてしまうからである。
しかし、ウミナギの家系は「犬神」であって「犬神憑き」ではなかった。
元々は犬神憑きだった。しかし、ある時2人の人間から人間ではなく、「犬の子」が生まれた。
2人は犬の子を不気味に思い、犬の子を海に流して捨てた。
犬の子は両親と自分を憎んだ。自分を捨てた親、犬に生まれてしまった自分。恨んだ。
犬の子は生きた。海に流されてもなお生き抜いた。しかし、既にその姿は犬の子ではなかった。
姿は成長するにつれて人間に近くなり、半獣とも言える姿だった。
そんな時、犬の子は両親を見つけた。自分を捨てた両親。自分を犬として産んだ両親。
犬の子はもはや恨みしかもっていなかった。犬の子は両親を骨まで喰らい尽くした。
両親を喰い尽くした時、犬の子の姿は人間へと成った。
人間となった犬の子は人間の嫁をとり、子を産ませた。その時から、この家系は「犬神」となった。
「犬神憑き」という憑き物ではなく、「犬神」という妖怪となったのだ。
しかし、犬神たちは人の子と縁を結び、妖怪としての力は徐々に弱体化していた。
そして犬神は妖怪ではなく、人間になったと思われたそんな時、生まれたのがウミナギだった。
ウミナギは最初の犬神のように犬の子として生まれた。しかし、その時とは違い、親はウミナギを大切に育てた。
その頃のウミナギの名前はナギ。凪。穏やかに、というのが名前の由来だった。犬神としてではなく、家族の1人として育てた。
ナギは幸せだった。しかし、ナギの幸せは長く続かなかった。
ナギの家に強盗が入り、買い物から帰ったナギの両親と鉢合わせになり、両親は刺されて死んでしまったのだ。
ナギは両親の亡骸を見て、初めて人へ恨みを覚えた。両親を殺した人間が許せなかった。
金を持って逃げようとした強盗目掛けてナギは噛みついた。その力は既に犬の力ではなく、「犬神」の力だった。
犬神の力は人の首を簡単に噛み千切った。ナギは強盗の身や臓器、骨まで食い尽くした。
そして…ナギは両親すらも喰った。両親を食べきった時、ナギの姿はあの犬の子と同じように人間となった。
ナギの恨みは人間への恨みへと変わった。あの犬の子が流された「海」の名を名乗り、恨みの力を増幅させた。
こうして妖怪犬神、ウミナギは出来上がった。人間への恨みのみで動く憎しみの塊。
「犬神」の能力、人を恨めば恨むほど強くなる。攻撃を受けたり、何かをされる度に強くなる。それが犬神。
ハ:これがアルトアはんたちから聞いた話や。
ネ:アルトアたちはどこでウミナギと知り合ったの?
ハ:なんでも、ペライトはん、アルトアはん、そしてもう1人、ノットはんの3人は、代々犬神憑きの近くに憑く憑き物やそうなんや。
ネ:犬神の全てを見てきたのね…
ハ:せやから、最初ネクリアはんを見たアルトアはんたちは、ネクリアはんから遠ざけるためにウミナギはんを連れて逃げようとしたらしいんや。
「大丈夫だろ。これだけ離れていれば問題はない。」
ネ:あの話は、私との距離が離れてるから問題ないってことだったのね。
ハ:せや。でも、わいらが近付いてもうたからウミナギはんの恨みは完全にネクリアはんに向いてしまい、アルトアはんたちではどうしようもなくなってしまったそうなんや。
ネ:概ね理解したわ。トトを「家族」と言った女の子には決して手を出さなかったのは、自分を「家族」と言って育ててくれた親と重ねたのかしら…?
ミ:なるほどね~。でもさ、ウミナギって…なんだかすごく悲しいよね。強盗さえいなければ、普通とは言えなくとも、幸せに生きれたかもしれないのに…
ネ:…ジャング!攻撃を止めなさい。
ジ:え?でも…
ネ:いいから止めなさい。
ジ:…
ウ:あ゙ぁ゙!?攻撃を止めるだァ?何考えてやがんだてめェェェ!?
ネ:ウミナギ。
ネクリアはウミナギに手を差し伸べた。
ウ:あ゙ぁ゙?何のマネだァァ?
ネ:あんた…私の手下にならない?
続く
2011年2月17日作成